大判例

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仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)32号 判決

被控訴人が別紙目録記載の不動産につき昭和二十三年八月一日附岩手と第六九二号買収令書を以てしたとする買収処分中、玉山広治名義の右不動産に対する持分二千二百三十九分の千二百三については買収処分が存在しないことを確認する。

被控訴人は右不動産に付盛岡地方法務局渋民出張所昭和二十五年三月三十一日受附第一九三号を以てした高橋兵庫、玉山広治の各持分取得登記の中、玉山広治名義の持分取得部分について抹消登記手続をなすべし。控訴人の其の余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分しその一を控訴人その余を被控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人が別紙目録記載の不動産につき昭和二十三年八月一日附岩手と第六九二号買収令書をもつてしたとする買収処分は無効(又は不存在)であることを確認する被控訴人は右不動産に付盛岡地方法務局渋民出張所昭和二十五年三月三十一日受附第一九三号をもつてした所有権取得登記の抹消登記手続をなすべし、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、控訴人が訴外高橋兵庫から買受けた土地の持分権の取得名義人を登記簿上玉山広治としたのは控訴人の前記土地に対する共有権を玉山に対する債務担保の目的で同人に信託的に譲渡したのである。右土地は控訴人が訴外高橋兵庫と共有していたのであるが事実上はこれを分割し控訴人に割当てられた部分は控訴人において使用収益していたのである。耕地整理の結果換地せられた土地の明細は甲第四号証記載のとおりであるが、本件買収計画は控訴人が事実上単独所有分として使用収益してきた本件係争の六筆についてたてられた。本件買収令書は訴外高橋兵庫にだけ交付されその他の共有者には交付されなかつたのであるから、右高橋以外の共有者に属する本件土地の共有持分については買収処分が存在しないと云うべきであり、本訴で買収処分の無効確認を求めるのは買収処分の不存在確認をも含む趣旨である、と述べ、被控訴代理人において、本件農地の買収計画は訴外高橋兵庫に対しては同人の保有面積超過の土地として、自作農創設特別措置法第三条第一項第二号により、また訴外玉山広治に対しては不在地主の所有小作地として同法第三条第一項第一号により樹立せられ、この計画に基いて買収されたものである。本件土地に対する買収令書は共有者の一人である訴外高橋兵庫に対し昭和二十三年十月十三日交付したが、他の共有者なる玉山広治に対しては買収令書を交付していない。仮に控訴人主張のように本件買収処分が無効であるとしても控訴人の持分を超える部分については控訴人が本件訴訟においてその無効確認を求める利益を有せず、又所有権移転登記の抹消手続を求める請求も控訴人の持分を超える部分については失当である、控訴人と高橋兵庫とが本件農地を含む共有地を事実上分割して使用していたとの点は否認する、と述べたほかは原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する(証拠省略)。

三、理  由

岩手県岩手郡巻堀村大字好摩第五地割三十一番字築袋畑七反四畝十九歩の土地は耕地整理の結果、別紙目録記載の田六筆を含めた合計十筆の田地に換地され、本件買収手続の行われた当時には、右田地は登記簿上訴外高橋兵庫と玉山広治の共有名義に属したこと、別紙目録記載の本件農地につき岩手県岩手郡巻堀村農地委員会は昭和二十三年五月二十三日旧自作農創設特別措置法第三条により右農地が高橋及び玉山両名の共有に属するものとして買収計画を樹て、これにつき岩手県農地委員会の承認を経た上、岩手県知事は同年八月一日附で同年七月二日を買収の時期とする「高橋兵庫外一名」宛の買収令書を発し、この買収令書は同年十月十三日高橋兵庫のみに交付され、玉山広治には交付されなかつたことは被控訴人の認めて争わないところである。

ところで、農地の買収処分は当該農地の所有者に買収令書を交付してこれをしなければならないことは旧自作農創設特別措置法第九条の明に定めるところであり、被買収農地が共有に属するものであれば各共有者の共有持分を買収するものに外ならないのであるから、各共有者に対して各別に買収令書の交付をしなければならないものというべきである。共有者の一名に対してのみ宛名を「何某外何名」と記載した買収令書を交付したからといつて、令書の交付を受けた者以外の共有者の共有持分につき買収の効力を生ずるものということはできない。

本件農地の買収処分については前記のように買収令書が共有者の一人である高橋兵庫のみに交付され、玉山広治に対しては令書の交付がなかつたのであるから、同人名義の共有持分(その持分は二千二百三十九分の千二百三であること後段認定のとおり)についてはいまだ買収処分は存在しないものというほかはない。

而して成立に争のない甲第一号証、同第四号証、同第五号証の一、二、同第七号証の一乃至六、同第九号証原審証人玉山広治、高橋喜兵衛、工藤定平の各証言を総合すると、前記換地前の畑七反四畝十九歩はもと高橋兵庫の単独所有であつたが、控訴人は昭和十六年三月二十三日高橋から二千二百三十九分の千二百三の持分を買受け右土地の共有者になつたこと、しかし控訴人は右買受に際しその妻の弟である玉山広治から金を借りた関係上、この借金を担保する趣旨で右持分の取得名義人を玉山広治として持分の取得登記を経たこと、控訴人はその後間もなく玉山からの借金を返済したが、登記簿上の名義は玉山広治のままに放置しておいたので、その後に行われた耕地整理による換地についても玉山広治が共有持分の取得名義人となつていたこと、前記共有地については分割の登記はしなかつたが、控訴人と高橋兵庫との協議によつて換地指定の前後を通じ、事実上共有者各自の使用部分を定め、各共有者はそれぞれ割当てられた土地の使用収益をしてきたものであつて、別紙目録記載の田地は控訴人に割当てられた部分に当り、控訴人はこれを訴外高橋喜兵衛に小作させ自ら小作料を収得し右田地についての公租公課を納めてきたこと、以上の事実が認められる。されば本件農地を含む十筆の田地は登記簿上は高橋兵庫と玉山広治の共有名義となつているけれども、実際は高橋兵庫と控訴人との共有に属し、且買収の対象とされた本件農地は事実上控訴人に割当てられ、その使用収益に委せられた部分であるからして控訴人は本件農地買収処分の無効又は不存在の確認を求める利益を有するものというべきである。

以上認定のように登記簿上玉山広治名義となつている共有持分が実質上控訴人に属するものであるとすれば玉山広治が係争農地との関係で不在地主にあたるからといつて旧自創法第三条第一項第一号により買収し得るかどうかの問題が存するわけであるが、いずれにしても本件の場合においては前段説明のように玉山広治に対して買収令書の交付がなく、同人名義の共有持分については買収処分がされたものとはいえないのであるからして、この部分につき買収処分の不存在確認を求める控訴人の本訴請求は正当というべきである。

次に高橋兵庫の持分についての買収処分が果して当然無効であるかどうかを考えるに、同人に対して買収令書の交付されたことは前記のとおりであるから、少くとも同人の共有持分については買収処分がされたものといわざるを得ない。而して原審証人工藤定平の証言によると、高橋に対する右の買収は同人の保有し得べき農地の面積を超過するものとしてなされたことが認められるが、前認定のように共有地が共有者に事実上分割され、控訴人に割当てられた別紙目録記載の本件農地は控訴人において単独所有者と同様の立場で使用収益していたにしても、登記簿上は依然として高橋兵庫と玉山広治の共有名義のままであつた本件の場合においては、登記簿上の記載に基いて行われた高橋に対する買収処分が当然に無効であるとはいえない。(本件農地が実質上控訴人の単独所有に属したものとすれば、結局控訴人の所有権の一部を、高橋兵庫の共有持分なりとして買収したこととなるからして、適法な期間内に不服を申立て違法としてこれが取消を求め得るかどうかは別個の問題である。)されば控訴人の本訴請求中高橋兵庫に対してなされた買収処分も当然無効なりとしてこれが無効確認を求める部分は失当である。

本件農地につき前記買収令書による買収を原因として昭和二十五年三月三十一日盛岡地方法務局渋民出張所受附第一九三号を以て、被控訴人が高橋兵庫、玉山広治の各共有持分を取得した旨の登記を経たことは当事者間に争のないところであり、右登記の抹消登記を求める控訴人の本訴請求も前記玉山広治の持分に関する限度においては正当であるがその余は失当というべきである。

以上の次第であるから控訴人の本訴請求は右の限度において認容しその余を棄却すべく、控訴人の請求全部を排斥した原判決はこれを変更すべきである。

よつて民事訴訟法第三百八十六条、第三百八十四条、第九十六条、第九十二条、第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

(目録省略)

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